【〜迷信・怪〜調査同好会】偽シナ保管庫:紅の巨兵〜古き怪/3ターン〜『古き怪』
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巨人が小人に縛り上げられる…この状況を見れば、大方の人物はガリバー旅行記を脳裏に過ぎらせるだろう。
ただ、一つ異なるのは巨人が絶対的な破壊能力を持っている点。
口内に集束されつつある怪光線は、次第にその光度を増していく。
半身をひび割れた左腕で支え、束縛を解こうと脚部には強大な物理エネルギーが加えられている。
フレイムバインディングが効力を為さなくなるのも時間の問題か。
ふと、この光景を目にした能力者の一人が考える。
これまで、このだいだら法師は山にひっそりと眠り、今日という日まで姿を現さなかった。
少なくとも、この地方史の残る限りでは町が滅び去った、などという記録はない―津波による災害を除くが。
加えて、もし近年姿を現しているとするならば、先の世代の能力者に滅ぼされているはずだ。
未だ、到底我々の及ぶところではない力量の能力者もその世代に存在するわけだから。
…では、それが何故今になって現れたのか?
―何故、それが今である必要があるのか。
疑問の答えは胃のした辺りで不快に堂々巡りし、吐き出せる答えには随分遠そうだ。
兎も角、今は目の前の危機を乗り切らなければならない。
怪光線が白崎全体に降り注いだ暁に、いったい何人の人間が犠牲になるのか計り知れない。
「光線を打たせはしないっすよ。」
飛が魔弾の照準を巨兵の頭部に合わせる。
「もうここまで来たら、一気に潰す気で行くっす!」
彼女の角笛と共に、最後の戦場が幕を切る―これで最後にしなければ。
「おぉぉぉぉぉーーーー!!」
今までより一層大きな雄叫びを港町に浴びせる、それは終焉の鐘の様に響き渡る。
「くらえぇええーーーーーっ!」
インフィニティエアが風を掴み、霜月は驚異的な飛翔をして宙に躍り出る。
その空中から風を蹴り、だいだら法師の頭部目掛け急降下攻撃を仕掛けた。
天から舞い降りる武装天使のインラインスケート・インストレックが空気と共に装甲を切り裂く。
「おぉぉぉーーー!!」
だが、巨兵も馬鹿ではない。
虫の攻撃は先で学習済み、その軌道は完全に読まれていた。
「…?!」
インストレックの刃が頭皮に突き立つとほぼ同時、だいだら法師の頭が後方に下げられ、そして勢い付けて前方に振り出される。
頭突きの一撃に、霜月のか細い足を鈍い衝撃が貫き、そのまま風に乗れず吹き飛ばされ椎茸小屋の屋根を突き破る。
「ちょっと、傷だらけじゃない!なにやってんのよ!!」
遅れて駆けつけた佐藤・茜(紅耀の詠う聖痕・b18033)が戦場に相応しくない和平の歌―ヒーリングヴォイスで霜月の傷を癒す。
「水刃手裏剣、奥義!」
掌に水圧を集中し、形成した無数の刃を破壊の光へと解き放つ。
……!
そのうち幾つかが光に取り込まれ蒸発し、幾つかが巨兵の頬を霞め、幾つかが喉の奥に痛々しく突き立つ。
だが、怪は動じず光を集束し続ける。
怪ながら妙な言い回しだが、何かに憑かれた様にただその唯一を考えているようにも見受けられた。
ぶちり…!!
鈍い音が後方で鳴り響く。
徹斎のかけたフレイムバインディングの拘束錠が終に断ち切られた瞬間だった。
杭として踝(くるぶし)を貫いた破城刀を押さえ込み、辛うじて抑えているがそれも長くはもたないだろう。
「闇に生き、闇の王たるが黒夜の一族…故に黒夜の名を知るものは数少なく、また知ったとしても待つものは…死、あるのみ…黒夜家が長、黒夜・志貴…参る」
霜月同様ナイフをインラインスケートに履き替えた志貴が地上界面に流れる空層を掴む。
アスファルトの表面をすんでで触れることなく空気を滑り、空中に駆け出でて長剣・Mahne[メーネ]を一閃する。
加速によって運動エネルギーに拍車をかけた一撃は切れ味鋭く、風を岩肌を、肉を腱を切り裂いた。
割れ目から赤々としただいだら法師の体液が噴出す。
先の戦闘での創傷と加え、もはや右足は使い物にならないだろう。
「生憎飛び道具は自信がないもんでな。」
間髪いれず、山城が左腕に入ったひびに沿って赤熱した斧を走らせる。
眼球に残像が残るほどの鋼の光熱が藍色の闇夜に軌道を描き、周辺の肌を削りながら肉を裂く。
熱は骨をも弾けさせ、支えを失った怪の状態は崩れ落ち山の湿った土粉を巻き上がらせた。
「おぉぉぉぉーーーーー!!」
轟音が鳴り響く、深紅に染まった山が再び動き出す。
だいだら法師は左足で下半身を起き上がらせ、力ない右ひざを大地に付き、月光を受け再び立ち上がった。
いったい何がそうまでさせる?!
能力者たちの疑問に答えず、彼はただ怪光線を放射に向け蓄積し続ける。
撃ち放たれた飛と浩之の乱撃により、もはや頭部は光線を放てないほど損傷しているはずである。
このまま撃ち放てば…まさか、自らの頭部を吹き飛ばしてまでこの一撃を放つ気でいるのか!
だいだら法師の頭部が揺れ始め、照準はもはや定まっていない。
ただ、港町か漁港の何処かということだけ。
打ち続ける魔弾も岩質の肌に遮られ思うほどの損傷を加えることが出来ない。
その間にも、刻々と終焉の雷は近付いている。
口内の光が徐々に光弾を形成し、その光が切り裂かれた頬から漏れ始める。
間に合うか…!?
「上るのは大変だが、エレベーターというものは随分便利なのだな。」
背中の岸壁をよじ登り、肩の上に足を降ろした影―徹斎が怪に言い聞かせるように語る。
…小脇に茜を抱えて。
「頑丈な表皮だけあって、感覚が鈍いようだ。敵は視覚と聴覚で察知しなければならない、そうだろう?」
怪は答えない、むしろ聞き取れていないのか、ただ臨界へと近付く光弾に頬を振るわせている。
徹斎は茜を同じ石段の上に降ろす。
「破城刀は足に突き立ったままだ。佐藤殿が遅れてきた分、取り戻してくれ。」
茜が深く一つ頷き、手中に光弾と勝るとも劣らない強く思いを秘めた輝きを生み出す。
それは何者をも貫く槍となり、それでいて攻撃的な輝きではなく―慈悲に満ちた終焉の兆し。
「祈りも悔悟も果たせぬまま!天空の輝きをもってその身の罪科を知り!風となって虚ろな闇に還りなさい!!」
煌きの中、さらに強い閃光が先端に刃を形成し、握り締めたか細い手から聖槍を撃ち放つ。
………!!
怪の頭部を貫き砕いたその一閃は、神槍・グングニルにも似た。
「え…?!」
頭部を砕かれて尚、だいだら法師の怪光線は光度を増していく。
「何で止まらねぇ!!」
山城の咆哮が空しく闇に響く中、終に怪光線が臨界を迎える。
……!!
闇夜に紅き耀光が走る。
それは能力者にではなく、港町にではなく、漁港にではなく―流れる雲を貫き大気を裂き、天へと向かいその先にある小さな星を一つ焼き尽くした。
「…もう、死んでいる。」
だいだら法師…その亡骸の後頭部を鷲掴みに、少しの揺らぎさえあれば傾いただろう頭部を上向けた。
目を細めた徹斎と茜を載せた身体は次第に色あせ、黒化する。
怪光線と共に魂が昇天したかのように全身が脱力し木々の中へ倒れ、それは柔らかな地面に抱かれ溶け込むように消失した。
その後、杭として貫いた破城刀だけが、墓石として大地に突き立っていた。
―目指した潮風―
「もしかすると、あの怪は最後に立ち上がった時点で既に死んでいたのやも知れんな。」
仕事後の一服を咥え、寄せる小波に語りかける。
「奴は、己の寿命を―死期を悟っていたのやも知れん。我々は彼の生きた時間の何億分の一を削ったに過ぎぬのかも…。」
だが、防波堤に背中をもたれかけ、ふと視線を落としたその先には確かに無傷の町並が存在する。
また明日になれば燈るだろう、明日の光を乗せた窓の並びが。
「奴が何故この海に執着したのかは分からぬが、大方、死に際に何か為さねばならぬことでもあったのだろう。」
空気を濁す白煙が、気だるく吐き出された。
「護れたものも大きいが、そう考えると何とも後味の悪い勝利だな…。」
苦笑を浮かべて吸い物を踏み消し、徹斎が去った先、確かに護りぬけたものが存在した。
耳の奥に、砂を擦る小波の音だけが響く。
山城は彼が目指した潮風を、暫く浴びていることにした。
ただ、一つ異なるのは巨人が絶対的な破壊能力を持っている点。
口内に集束されつつある怪光線は、次第にその光度を増していく。
半身をひび割れた左腕で支え、束縛を解こうと脚部には強大な物理エネルギーが加えられている。
フレイムバインディングが効力を為さなくなるのも時間の問題か。
ふと、この光景を目にした能力者の一人が考える。
これまで、このだいだら法師は山にひっそりと眠り、今日という日まで姿を現さなかった。
少なくとも、この地方史の残る限りでは町が滅び去った、などという記録はない―津波による災害を除くが。
加えて、もし近年姿を現しているとするならば、先の世代の能力者に滅ぼされているはずだ。
未だ、到底我々の及ぶところではない力量の能力者もその世代に存在するわけだから。
…では、それが何故今になって現れたのか?
―何故、それが今である必要があるのか。
疑問の答えは胃のした辺りで不快に堂々巡りし、吐き出せる答えには随分遠そうだ。
兎も角、今は目の前の危機を乗り切らなければならない。
怪光線が白崎全体に降り注いだ暁に、いったい何人の人間が犠牲になるのか計り知れない。
「光線を打たせはしないっすよ。」
飛が魔弾の照準を巨兵の頭部に合わせる。
「もうここまで来たら、一気に潰す気で行くっす!」
彼女の角笛と共に、最後の戦場が幕を切る―これで最後にしなければ。
「おぉぉぉぉぉーーーー!!」
今までより一層大きな雄叫びを港町に浴びせる、それは終焉の鐘の様に響き渡る。
「くらえぇええーーーーーっ!」
インフィニティエアが風を掴み、霜月は驚異的な飛翔をして宙に躍り出る。
その空中から風を蹴り、だいだら法師の頭部目掛け急降下攻撃を仕掛けた。
天から舞い降りる武装天使のインラインスケート・インストレックが空気と共に装甲を切り裂く。
「おぉぉぉーーー!!」
だが、巨兵も馬鹿ではない。
虫の攻撃は先で学習済み、その軌道は完全に読まれていた。
「…?!」
インストレックの刃が頭皮に突き立つとほぼ同時、だいだら法師の頭が後方に下げられ、そして勢い付けて前方に振り出される。
頭突きの一撃に、霜月のか細い足を鈍い衝撃が貫き、そのまま風に乗れず吹き飛ばされ椎茸小屋の屋根を突き破る。
「ちょっと、傷だらけじゃない!なにやってんのよ!!」
遅れて駆けつけた佐藤・茜(紅耀の詠う聖痕・b18033)が戦場に相応しくない和平の歌―ヒーリングヴォイスで霜月の傷を癒す。
「水刃手裏剣、奥義!」
掌に水圧を集中し、形成した無数の刃を破壊の光へと解き放つ。
……!
そのうち幾つかが光に取り込まれ蒸発し、幾つかが巨兵の頬を霞め、幾つかが喉の奥に痛々しく突き立つ。
だが、怪は動じず光を集束し続ける。
怪ながら妙な言い回しだが、何かに憑かれた様にただその唯一を考えているようにも見受けられた。
ぶちり…!!
鈍い音が後方で鳴り響く。
徹斎のかけたフレイムバインディングの拘束錠が終に断ち切られた瞬間だった。
杭として踝(くるぶし)を貫いた破城刀を押さえ込み、辛うじて抑えているがそれも長くはもたないだろう。
「闇に生き、闇の王たるが黒夜の一族…故に黒夜の名を知るものは数少なく、また知ったとしても待つものは…死、あるのみ…黒夜家が長、黒夜・志貴…参る」
霜月同様ナイフをインラインスケートに履き替えた志貴が地上界面に流れる空層を掴む。
アスファルトの表面をすんでで触れることなく空気を滑り、空中に駆け出でて長剣・Mahne[メーネ]を一閃する。
加速によって運動エネルギーに拍車をかけた一撃は切れ味鋭く、風を岩肌を、肉を腱を切り裂いた。
割れ目から赤々としただいだら法師の体液が噴出す。
先の戦闘での創傷と加え、もはや右足は使い物にならないだろう。
「生憎飛び道具は自信がないもんでな。」
間髪いれず、山城が左腕に入ったひびに沿って赤熱した斧を走らせる。
眼球に残像が残るほどの鋼の光熱が藍色の闇夜に軌道を描き、周辺の肌を削りながら肉を裂く。
熱は骨をも弾けさせ、支えを失った怪の状態は崩れ落ち山の湿った土粉を巻き上がらせた。
「おぉぉぉぉーーーーー!!」
轟音が鳴り響く、深紅に染まった山が再び動き出す。
だいだら法師は左足で下半身を起き上がらせ、力ない右ひざを大地に付き、月光を受け再び立ち上がった。
いったい何がそうまでさせる?!
能力者たちの疑問に答えず、彼はただ怪光線を放射に向け蓄積し続ける。
撃ち放たれた飛と浩之の乱撃により、もはや頭部は光線を放てないほど損傷しているはずである。
このまま撃ち放てば…まさか、自らの頭部を吹き飛ばしてまでこの一撃を放つ気でいるのか!
だいだら法師の頭部が揺れ始め、照準はもはや定まっていない。
ただ、港町か漁港の何処かということだけ。
打ち続ける魔弾も岩質の肌に遮られ思うほどの損傷を加えることが出来ない。
その間にも、刻々と終焉の雷は近付いている。
口内の光が徐々に光弾を形成し、その光が切り裂かれた頬から漏れ始める。
間に合うか…!?
「上るのは大変だが、エレベーターというものは随分便利なのだな。」
背中の岸壁をよじ登り、肩の上に足を降ろした影―徹斎が怪に言い聞かせるように語る。
…小脇に茜を抱えて。
「頑丈な表皮だけあって、感覚が鈍いようだ。敵は視覚と聴覚で察知しなければならない、そうだろう?」
怪は答えない、むしろ聞き取れていないのか、ただ臨界へと近付く光弾に頬を振るわせている。
徹斎は茜を同じ石段の上に降ろす。
「破城刀は足に突き立ったままだ。佐藤殿が遅れてきた分、取り戻してくれ。」
茜が深く一つ頷き、手中に光弾と勝るとも劣らない強く思いを秘めた輝きを生み出す。
それは何者をも貫く槍となり、それでいて攻撃的な輝きではなく―慈悲に満ちた終焉の兆し。
「祈りも悔悟も果たせぬまま!天空の輝きをもってその身の罪科を知り!風となって虚ろな闇に還りなさい!!」
煌きの中、さらに強い閃光が先端に刃を形成し、握り締めたか細い手から聖槍を撃ち放つ。
………!!
怪の頭部を貫き砕いたその一閃は、神槍・グングニルにも似た。
「え…?!」
頭部を砕かれて尚、だいだら法師の怪光線は光度を増していく。
「何で止まらねぇ!!」
山城の咆哮が空しく闇に響く中、終に怪光線が臨界を迎える。
……!!
闇夜に紅き耀光が走る。
それは能力者にではなく、港町にではなく、漁港にではなく―流れる雲を貫き大気を裂き、天へと向かいその先にある小さな星を一つ焼き尽くした。
「…もう、死んでいる。」
だいだら法師…その亡骸の後頭部を鷲掴みに、少しの揺らぎさえあれば傾いただろう頭部を上向けた。
目を細めた徹斎と茜を載せた身体は次第に色あせ、黒化する。
怪光線と共に魂が昇天したかのように全身が脱力し木々の中へ倒れ、それは柔らかな地面に抱かれ溶け込むように消失した。
その後、杭として貫いた破城刀だけが、墓石として大地に突き立っていた。
―目指した潮風―
「もしかすると、あの怪は最後に立ち上がった時点で既に死んでいたのやも知れんな。」
仕事後の一服を咥え、寄せる小波に語りかける。
「奴は、己の寿命を―死期を悟っていたのやも知れん。我々は彼の生きた時間の何億分の一を削ったに過ぎぬのかも…。」
だが、防波堤に背中をもたれかけ、ふと視線を落としたその先には確かに無傷の町並が存在する。
また明日になれば燈るだろう、明日の光を乗せた窓の並びが。
「奴が何故この海に執着したのかは分からぬが、大方、死に際に何か為さねばならぬことでもあったのだろう。」
空気を濁す白煙が、気だるく吐き出された。
「護れたものも大きいが、そう考えると何とも後味の悪い勝利だな…。」
苦笑を浮かべて吸い物を踏み消し、徹斎が去った先、確かに護りぬけたものが存在した。
耳の奥に、砂を擦る小波の音だけが響く。
山城は彼が目指した潮風を、暫く浴びていることにした。