【〜迷信・怪〜調査同好会】偽シナ保管庫:紅の巨兵〜古き怪/1ターン〜『眠れる町の攻防』

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夜を駆けた能力者たちの足が一斉に止まる。
丁度、山の青さと海の磯の交じり合った空気の場所、数体の猪と共に突撃を仕掛けてくる少女の姿―もものけ姫。
右手に掲げた石槍、ノンスリーブの皮の羽織…そして下には黒いスパッツのようなものを纏い…
…いや、違う。
それは太ももをびっしりと多い尽くした『毛』。
腰みのから溢れ出すダンディな剛毛は、様々な意味で能力者たちを裏切った!
もはや今に至って、『もののけ姫』と『もものけ姫―腿の毛姫』を間違うものは誰一人としていない。
「(こ、こいつは絶対殺さねば…!!)」
能力者たちは何故か凄まじい殺意と決意を胸に秘めていた。

「いきますっ!」
突撃する十体の猪の群れに、蒐・霜月(高校生月のエアライダー・b27174)が一番槍に切り込む。
インフィニティエアの風を纏い、彼のインラインスケートが月夜をかけた。
そして中央まで討ち入ると最前の猪を相手取り、彼らを切り払っては回避、切り払っては回避―ヒット&アウェイで内部から妖獣を混乱させる。
「さぁ、どこのどいつだ?猪鍋に料理されてぇやつから出てきやがれ!!…おっと」
隊列の乱れた猪の群れを威圧するように退治する氏名・士(劫火のイフリート・b27738)が、何か末恐ろしいことを言いかけて口をつぐんだ。
しかしながら、士は一点のばつの悪さもない表情で白燐拡散弾を撃ち放ち、妖獣の皮と肉を同時に抉(えぐ)りとる。
「あぶねぇ!」
………!!
範囲攻撃の対象となった猪に気を取られ、後方は疎かになっていた。
士の背中に回りこんだ猪の粗悪な一対の角が、今肉を剥ぎ、骨を砕かんと突進してくる。
回避は間に合わない、波音の狭間に歪な音が響き渡り、鮮血が飛び散る…。
…それは士の血ではない、背中に迫った妖獣の骨が砕かれたのだ。
士に注意を促した人物、火神・山城(鋼鉄の勇気・b00884)のフェニックスブロウが妖獣の角ごと眉間を割っていた。
…余談だが、猪を焼いた不死鳥の炎から立ち上る蒸気、妙に香り高い。
「(…肉!?)」
幸か不幸か、このことに気付いてしまった龍田・飛(飛天の臥龍玉・b16875)は、それまで睨みつけていたもものけ姫から視線を猪へと変更する。
大方の戦力を失った猪は、じりじりと山へ後退していく。
『"あれ”さえ動けば…!』
妖獣の浮かべる含みからは、他力本願の色が滲み出ている。
「後手に回ったが最後、戦略とは自ら為すものだ。」
猪の後方に回っていた拝・徹斎雪影が破城刀を振るう。
残り三体となった妖獣を、刃が一体を二分し、そのまま回転して柄で一体の脊椎を破壊し、肉の割れ目から髄液を飛び散らせる。
仲間を囮と、犠牲として山に振り返り、全力で駆け逃れるもう一体も。
深夜00:32、生き延びるには、もう遅い。
「待て〜、ボタン肉〜!!」
デジタル式の腕時計を乗せた左腕を振るい、掌に炎の魔弾を集束させる。
空気に引火するように飛来する魔弾は、猪が再び腐葉土を踏むことを許さなかった。
山の青さと海の磯、そして何故かジューシーな香りが夜風に流れていた。

猪族が焼き尽くされる一瞬前、最後に見た光景は三人の能力者に取り囲まれたもものけ姫の姿であった。
『お前らそれ卑怯だろ!?』
きっとこんな思いを胸に逝ったに違いない。
しかしながら、ボンバイエな腿の毛に裏切られた能力者たちにとって、もはやそんなことは関係なかった。
言い表しがたい衝動、溢れ来る殺意…理由は各々にせよ、今はそれに身を任せて良しと判断する。
こんな感覚は初めてだと、一層の殺意を掲げた黒夜・志貴(殺人鬼・b00375)。
未だに『もものけ』ではなく『もののけ』だと信じて疑わず、そのためかボンバイエに絶対的な悪を感じる狐塚・蘇芳(朧狐霧天狗・b00814)。
そこに猪の妖獣を殲滅した山城も加わり、今の円陣に至る。
だが、もものけ姫の表情に一つも不利を感じさせるものはない。
何故なら、彼女には秘策があるのだから。
『アシタゲ(足多毛)…!!』
ずもももももも…!
少女がそう叫んだ瞬間、腰みのを破り裂き腿に根付いた剛毛たちが急速に成長する。
そして月光をも遮り黒い影を為したそれらは数十本で一束となり、まるでぞれぞれが意思を持っているかのような触手として蠢いている。
「……駄目だ……こいつは絶対許せねぇ!!」
その光景を目にした山城は、その場に構える全ての能力者の心中を代弁した。
「破邪の力は汝を射抜くで御座る!」
蘇芳の放った破邪矢が毛の大群をかい潜り夜空に抜ける。
一瞬遅れて、その軌道に存在する触手たちが次々と砕け散る。
「次におまえが瞬きをした間に殺すよ。 ―――いいかげん、おまえの顔にも見飽きたところだ。」
破邪矢の作った月の木漏れ日を辿るように、卓越した速度で志貴が駆け抜ける。
無論、それを見逃すはずもない触手は志貴を取り囲むように毛を伸ばすが、速度に裏づけされた攻撃に隙はない。
一つ、二つ…三つの三日月を闇と虚空に描いて後退した彼と短刀・七夜は、十数束の腿の毛を切断していた。
だが、無数の毛は止まることを知らない。
刈り残された幾本の影が山城に迫る。
「当てられないなら相手が当たりに来るのを待てば良い…拝先輩も言ってたぜ?」
似ていない口真似を呟いた山城は、横飛びで強引に触手をかわす。
そしてその触手を鷲掴みにすると同時に、手から不死鳥の炎を放ち毛を燃焼させる。
太く長い毛、燃焼部位は十二分…山城の掌から放たれた焔が腿の毛に焼畑の如く燃え広がり、海風と山風が拍車をかける。
数秒も要さず、もものけ姫を取り囲んでいたのは頼もしき剛毛ではなく、地獄の業火であった。
「汝ら、此処で退散してもらうで御座る」
対して、霧影分身を纏った蘇芳に炎の影響は殆どない。
消沈しつつある引火の中に飛び込み、もものけ姫の首元に気魄の一撃を叩き込む。
衝撃に耐えられず地面に付した少女だが、毛さえなければ美しいその太ももから触手を再生しつつある。
「極彩と散れ…」
円月に影を写すは望まれぬ役者。
一度目の腿の毛が成長する様を彼の目は捉えていた。
毛は先ず横に広がり、そこから少女の頭上を覆う。
屋根から駆け上がった志貴が急降下し、闇の触手が姫を覆い包む前に、彼の短刀は少女の脳天を貫いていた。

獅子は散った。
彼女らが消滅した後には煤だけが残り、それも朝までには潮風と消えるだろう。
「お疲れ様でしたぁーっ!!」
元気良く霜月が敬礼する。
………!!
刹那、彼を赤い光が覆う―月ガ赤ク染マル。
否、それは月を覆い、その深紅の身体に月を透かせた巨兵の影。
『だいだら法師』
山の如きがたいを立ち上がらせ、岩のように硬質な肌を木々に擦らせ、数段の階段を昇降するかのように山を降りて来る。
その目指す先は海、その間には…能力者たちのいる市街地!
能力者たちは再び駆け出し、次第に強くなる山風を切り進んだ。

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【敵と戦地】
・攻撃部位は『足』『腕』『胴体』『頭部』で、『胴体』と『顔面』は『足』を潰さない限り、近接攻撃が当たりません。
(市街地へ歩を進めさせないためにも、足は真っ先に破壊すべきでしょう。)
・だいだら法師の攻撃方法は、腕による殴り(術式)、足による踏み潰し(気魄)、口から怪光線(神秘)の3パターンです。
・各部位もパターンに対応しており、『足(気魄)』『腕(術式)』『胴体(気魄)』『頭部(神秘)』となっております。
・また、岩のように硬い肌を持っており、半端な威力の攻撃では囮程度にしかなりません。
*頭部か胴部を完全破壊した時点で、だいだら法師は消滅します*

・戦地は山の麓(ふもと)での戦闘となります。材木の丸太やだいだら法師の後方の針葉樹林などの地形を利用するのも良い手かも知れません。

【行動】
1、足に攻撃(敵戦力:20)
2、腕に攻撃(敵戦力:15)
3、胴体に攻撃(敵戦力:50)
4、頭部に攻撃(敵戦力:30)